――そして次に目が覚めたのは夜明け近く。
突如上がった甲高い悲鳴に一気に意識が浮上する。
飛び起きるとすぐにセリーンと目が合った。
「今のは」
「ライゼちゃんの声だよね!?」
テントの中に彼女はいなかった。私たちはすぐに外へ飛び出した。
辺りはまだ暗かったが空はうっすらと白み始めていた。
「あそこだ」
セリーンが指差した先、森への入口付近に人影を見つけすぐさま走り出す。
まさかの嫌な予感に心臓がドクドクと不快な音を立てていた。
そして再び聞こえてきたライゼちゃんの悲鳴。
「ブライト! ブライト!!」
ライゼちゃんの背後に着いて、私は息を呑む。
地面に膝を付き狂ったように叫ぶ彼女の目の前には、目を覆いたくなるほど無惨な姿となったブライト君が倒れていた。
「ブライト! 目を開けてブライト!!」
痣だらけになった頬を両手で覆い何度も呼びかけるが、彼は一向に目を開かない。
顔だけじゃない。体中に暴行を受けた痕、そしてまだ乾ききっていない血の跡が残っていた。
そのあまりの変わり様に私は言葉が出ないでいた。
と、そんな突っ立ったままの私をすり抜け、セリーンがライゼちゃんの向かいに膝をついた。
「酷いな……。だが気絶しているだけのようだ。おそらくここにたどり着くために力を使い果たしたのだろう」
こういったことに慣れているのだろう、傭兵であるセリーンが冷静にそう言うのを聞いて私は少しだけ安心した。
「……森の、いつもとは違うざわめきが聞こえたのです」
ライゼちゃんもセリーンの言葉に少し落ち着きを取り戻したのか、ブライト君からゆっくり手を離しそのまだ震える手を抱くようにして言った。
「それで外に出て、そうしたらブライトがここに……っ」
でも途中で声を詰まらせ口を手で覆い俯いてしまった。
心配していた幼馴染がこんな姿で戻ってきたのだ。動揺しないほうがおかしい。
私はライゼちゃんの後ろにしゃがみこみ彼女の小さく震える肩に手を置いた。
「ここまで歩いて来られたんだもん。大丈夫だよ、ライゼちゃん」
そう言った時だ。ライゼちゃんの名に反応するようにブライト君の眉がぴくりと動いた。
「ライ、ゼ……様」
「ブライト!!」
腫れ上がった瞼が薄く開き、その瞳がすぐに彼女を見つけた。
「ライゼ、様、カルダが――ッ、げほっごほっ!」
でも喋り出した途端、ブライト君は苦しげに体を折り曲げ咳き込みながら大量の鮮血を吐き出した。