私は服を直しながらゆっくり起き上がり、その後姿に小さく声を掛けた。
 だが小さすぎて聞こえなかったのか、彼は答えずにただ何度も何度も男の腹に蹴りを加えている。
 その攻撃には傍から見ても容赦が無かった。
 蹴られる度、男の口から出る声はもう“声”では無い。
 流石に焦った私は、未だガクガクと震える足を引きずり、後ろからラグの服の裾を掴んだ。

「ラグ!」

 ビクリと彼の背中が反応し、男を蹴っていた足が止まる。
 男は口から泡を出して白目を向いていたが、気絶しているだけのようだ。
 ほっと息をついて、ラグから手を離した私はまたその場にへたり込んでしまった。
 ……足が限界だったのもあるが、ラグ達が来てくれたことへの安堵感で一気に力が抜けてしまったみたいだ。

 ラグが舌打ちしてからこちらに足を向けた。
 きっと怒鳴られると思い、思わず身構える。――でも、

「大丈夫、なんだな」
「え?」

予想外の言葉とその気遣わしげな声音に私はポカンと彼の顔を見上げてしまった。

 走ってきてくれたのか、その息は酷く荒く、額からは幾筋もの汗が流れていた。
 そして、いつもは鋭い青い瞳が、今はとても優しく感じられて……。
 彼は汗を拭うと、私に手を差し伸べてくれた。

「起きれるか?」

 その手を見ながら、つい、張り詰めていたものが緩んでしまった。

「ぅ、え……っ」
「んな!? またお前っ」
「だって、怖かっ……っ」

 ぼろぼろと出てくる涙を止めようと強く目をこする。
 ――私が泣くと、決まって慌てるラグ。
 だからなるべくラグの前では泣きたくないのだけれど、

(でも、今そんな優しくするのは反則だよ~~)

「ぶぅ~?」

 べそべそとかっこ悪く泣く私の顔をブゥが心配そうに覗き込んでくれている。