「なぁ、クラール! 起きろよ!」

 クラール君の傍らに膝を着き何度も何度も呼びかけるラウト君。
 でもクラール君は目を閉じたまま、何の反応も示さない。

「何度呼んでも目開けないんだ、どうしよう。お姉さん、クラール死んじゃうの?」

 今にも泣き出しそうな顔で、ラウト君がまだ突っ立ったままの私の方を見上げる。
 私はしっかりしなきゃと頭を振って、ラウト君の隣に膝を着いた。

「前に会ったのはいつ? そのときはどんな様子だったの?」
「えっと、えっと、前に会ったのは、ビアンカに乗る少し前だから、一週間前くらいだよ。その時も元気は無かったんだ。でもこんな……寝てたりしないで、ちゃんと話も出来たんだよ」
「そう……あ、クラール君のお父さんとお母さんは?」
「お母さんは、戦争のときに死んじゃったって言ってた。で、お父さんはどこかに連れて行かれちゃったって……」

 ライゼちゃんが言っていた話を思い出す。
 戦争後、体力のある者は奴隷として各国へ送られたという話。

(ということは、クラール君は戦争が終わってからずっと、一人暮らしだったってこと……?)

 ぎゅっと拳を握り締める。

「……誰か、クラール君の面倒を見てくれている人とか、知らない? おばあちゃんとか、親戚の人とか」
「わからない。僕が来るときクラールいつも一人だったから」
「そう……。じゃあ、お医者さんは? この村にお医者さんはいないの?」
「お医者さんは」

 ラウト君が言いかけたそのとき、外で物音がした。
 私たちはハっと顔を見合わせて、息を潜める。