「何でもいい! とにかく歌ってみろ!」
「こんなときに歌なんて……」

 いつも気が付けば何かしらのメロディーを口ずさんでしまっている程歌うことは好きだけれど、今は状況が状況だ。
 歌なんて歌えるわけが――。

「早くしろ!」

 すでに敵は目前。
 私たちは追い込まれるようにいつの間にか城壁を背にしていた。

 ――この城壁を越える事が出来れば。

 今、空を飛ぶ事が出来れば……。

 その時ふと視界に入ったのは、ブゥの小さな翼。
 そう。あんなふうに自分にも翼があれば。

 兵士たちに再び囲まれるのと、私の口から小さな歌声が漏れたのは同時だった。