突然間近で聞こえたラグの声に驚く。
いつの間にか彼は私のすぐ隣にいた。
「百面相って……私そんな変な顔してた?」
「見ていて面白かったぞ」
頬に手を当てて焦る私に答えたのはセリーンだ。
かぁっと顔が熱くなる。
ラウト君は私の真似をしているのか頬を手でぐにぐにと動かし色んな表情を作ってヴィルトさんに見せていた。
ヴィルトさんは全く表情を変えなかったが、私は更に顔が熱くなるのを感じた。
そんな私たちを見て、ライゼちゃんがひとりクスクスと笑っている。
「で、歌えるんだな? ……ぶっ倒れねぇで」
最後は私にしか聞こえないような小声で、ラグが私に確認する。
昨日私が恥ずかしいと言っていたことを気にしてくれたみたいだ。
「う、うん。大丈夫! ……多分」
最後の一言はラグへ向けて。
彼は一瞬不安そうに眉を顰めたけれど、
(うん。多分大丈夫)
そんな気がした。
昨夜のラグの講義のお蔭だろうか。
依然緊張はあるけれど、それまでは無かった妙な自信があった。
それに子供達の前で歌う歌はもう決まっていた。
おそらく、今までに一度も歌を聴いたことの無い子供達。
そんな彼らにぴったりな歌が先ほどからずっと頭の中で流れていた。
「楽しんでくれたらいいなぁ」
「楽しむ? 歌で楽しむのか?」
私の何気ない一言に反応したのはセリーン。
ライゼちゃんも不思議そうな、でもどこか期待するような目で私を見ている。
――そうだ、子供達だけじゃない。
(セリーンもライゼちゃんも……ううん、ここにいる皆が、歌がどんなに楽しいものなのか知らないんだ)
私は自信たっぷりの笑顔で言う。
「うん! 歌って、とっても楽しいんだよ!」
歌のことを早く皆に知って欲しいと思った。



