「そうだね。驚いたよ、まさかいきなりフェルクレールトに来ちゃうなんてね。……でも残念。この国に僕はいないよ」
「ならどこにいやがんだ!」

 ラグがイラついたようにもう一度怒鳴る。
 私もゴクリと喉を鳴らして彼の答えを待った。
 相変わらずキレイな笑顔で彼は言う。

「僕が今それを答えたら、君はどうするつもりだい?」
「決まってんだろ。すぐにでもこいつ連れてそこまで行ってやるよ」
「だろうね……」

 ふっと笑って彼は続けた。

「なら、まだ教えてあげない」
「んだと!?」
「そんなに早く答えがわかっちゃったら、面白くないだろう?」
「てっめぇええ!!」

 にっこり笑って言う彼にラグは拳をわなわなと震わせ今にも飛び掛っていきそうな勢いだ。
 私も驚いていた。
 やっぱり彼はただ優しい人、というわけではないようだ。
 そして気づく。
 金色の月が映る水面に、同じように映るはずの彼の姿は無い……。

「ヒントはいくつか出してあげているんだ。あの赤毛の彼女も、僕のことを知っているようだしね」

 と、彼が再び私の方を向いた。
 その瞳はやっぱり優しくて、私にはなぜかラグのような怒りが全く湧いてこなかった。
 私だって早く彼の元へ行って、早く元の世界に……家に帰りたいはずなのに……。

「ごめんね、カノン。僕はね……君にもっとこの世界を見て欲しいんだ」
「え?」

(この世界を……?)

「本当は、君を早く元の世界に帰してあげたい。僕も早く此処から出たいしね。……けど、僕も君の歌を聴いて、もっと聴いてみたくなった。君がこの世界で何が出来るのか、何を変えられるのか……。見ていたくなった」