そのほら穴の前には何かを捧げるような台が置いてあり、まるで神様を祀った祠のような厳かな雰囲気があった。

「ビアンカ、本当にありがとう。ゆっくり休んでちょうだい」

 ライゼちゃんがビアンカの首辺りを摩りながら言う。

「ありがとー!」

 ラウト君も元気良くお礼を言うとビアンカは二人に返事をするようにチロチロと舌を出した後、その暗い穴へと入っていった。
 ……ひょっとして、ここがビアンカの住処なのだろうか。

 私も遅れて「ありがとう」と言ってみたが、もうその姿は見えなくなっていた。

「ねぇライゼちゃん。もしかしてビアンカって、なんか凄いモンスターなの?」

 我ながら間抜けな質問だと思ったが、ライゼちゃんはにっこり笑って答えてくれた。

「はい。ビアンカは私達フェルクの民にとって神聖な存在です。彼女を代々祀るのが神導術士の役目でもあるんです」

 代々、ということはビアンカは相当長生きしているのだろうか。
 そして、そんな神聖な存在に跨ってしまって本当に良かったのだろうかと、私は今更ながらに心配になった。でも、

「本来なら、こんなふうにビアンカをこの国から連れ出すことなどあってはならないことなのですが……ビアンカは私の願いを聞き入れてくれたんです」

 嬉しそうに話すライゼちゃんを見て、私も自然と笑顔になっていた。

「もうすぐだよ、僕達の家!」

 ラウト君がはしゃぐように言った。――そのときだ。

「!?」

 私はいきなり誰かに後ろから突き飛ばされた。