――――ガチャ

 病室のドアを、開けたら。

「帰ったと思った」

 巧くんが、ベッドの上にいた。

 そこは、広めの個室。

 パジャマでなく私服を着た巧くんが。

 横にならずに、座っていたんだ。

「検査、終わったの?」

 寝ていなくていいの?

 顔色はよくなったみたいだけど。

 いつもの巧くんに見えるけど。

 また、無理してるんじゃ――……
「終わったよ」
「点滴とかは」
「もうイラナイ」

 イラナイ?

 必要ないって判断、誰がしたの?

「結果も別に聞いて帰らなくていい」
「馨さんが聞いておいてくれる?」
「……会ったのか」
「サンドイッチとミルクティー、おごってもらっちゃった」
「ムカつくなあ。僕は花に買ってあげたことないのに」
「そんなことで拗ねないでよ」
「おいで」

 巧くんに、近づくと。

「アイツのニオイついてるんじゃない?」
「まさか」

 グイッと腕を引き寄せられ、ひざのうえに乗せられた。
 キスできそうなくらい顔が近い。

「甘い香りがする」
「それはミルクティー飲んだから……っ」

 いや、違うかも。
 今朝は付き添いの人も利用していいと言われたシャワー室を借りたのだけれど、病院で買った携帯できるサイズのシャンプーを使った。

 それがなんだか思いのほか、甘い香りがしたっけ。

「ほんとだ。ミルクティーの味」

 ペロッと唇を舐められる。

「わ、わかんないでしょ。そこまでは」
「わかるよ。わからなくても、わかりたい。花のことは」
「…………」
「大好きだから」
「巧くん」
「なんだい花」
「……いき、て」

 巧くん、生きて。

「アイツになにか言われた? だったら。いちいち気にしなくていい」

 視線を逸らすのは。
 強がっているからなんだよね?

「わたしが。巧くんに、生きて欲しい」