またおかしなことを言われるんじゃないかと、警戒したら。

「君が僕に特別をくれることが。たまらなく嬉しいんだ」

 巧くんの口から出た言葉は、あまりにもキレイで。 
 それを疑うなんてことができなくて。

「泣き顔に限らず。花の特別が僕に向けられると、幸せになる」
「……幸せ、に?」
「愛してしまった。花のこと。どうしようもないくらい」

 このひとを一人にしちゃダメだって思った。

「花が同じクラスの男に泣かされていたとき。殺してやりたいくらい腹が立った」
 …………!
「花が僕以外の人間に傷つけられるのは。我慢できない。赦せないと思う」
「巧くんなら、わたしを傷つけてもかまわないってこと?」
「かまわないよ」
「なんで? わたし、悲しくて泣いてるんだよ。それなのに。可愛いとか言われるの、すごくいやだ」
「それでいい。僕を想って、苦しんで。僕のために、泣いて」
「それが。巧くんの幸せ?」
「僕の幸せは。君を、愛し続けること」

 めちゃくちゃなことを言われているのに。
 突き放す、という選択肢がわたしの中にないことに気づく。

 きっと、このひとを変えるのは難しい。
 だったらわたしが変わるしかない。

 変わるしかない、けど。

 巧くんの色に染められるのが、怖い。

 どんどん、わたしがわたしじゃなくなっていく。

 細身にみえて、たくましい胸。
 筋肉のついた男らしい腹筋。

 タオルを、そっと、あてる。
 一度拭いた面は折り返して内側にする。

「いっかい、洗ってくるね」

 綺麗にして、次は背中を拭こう。

「行かないで」

 腕を、力強く掴まれる。

「いたいよ、巧くん」
「花。ひとつになろう」
 ――――!?
「花の前では。僕は。みんなの望む僕にならなくていいんだよね?」