仁瀬くんは壊れてる

 翌日、全校集会に仁瀬くんの姿はなかった。

 誰よりも目立つはずなのに。

 休みなのかなって。
 彼を探している自分も、彼がいない理由を考えている自分もいやだ。


「じゃ、また27日!」

 駅の改札で、沙羅と別れる。
 沙羅とは反対側のホームだ。

 ひとり、電車を待っていると、後ろに並んでいる子の会話が聞こえてきた。

「巧くん、大丈夫かな」
「40℃近いらしいね」
 …………え?

「心配だなあ〜」

 タクミくんって。まさか。
 姿を見なかったのは熱のせい?

 いいや、同じ名前の人なんて世の中にいくらでもいるだろう。

 そう自分に言い聞かせてみるも。
 モヤモヤして、なにかが引っかかったような気持ちになって。

 そっと、その子たちの顔を確認する。

 話してるのは同じ学校の制服を着た女の子で。

 ――巧くーん。それ、きっと多すぎるよ。

 …………特進クラスの子だ。

 借りた本を受け取りに教室に行ったとき、仁瀬くんの近くにいた、あの子だ。

 ということは。
 やっぱり会話に出てきたタクミくんって。

 ――――仁瀬くん?

 昨日の朝に別れたときは、体調悪そうに見えなかった。

 あのあと、高熱、出したの?

 仁瀬くんは一人で暮らしている。
 辛くても。助けを呼べない。

 ……って、考えすぎか。
 頼まなくても喜んで世話してくれる女の子、たくさんいるよね。

 利用する、なんて簡単に言う人だ。
 欲しいものは。
 簡単に、手に入れられるんだ――
「看病してあげたーい!」
「でも巧くんて。家には絶対に入れてくれないもんね」
「ね。女の子のうちにはあがるのに」
 …………!?
「夏休み。会えないの寂しすぎる」