バカみたいに泣きはらしたあと。

 いつもより暗い通学路を仁瀬くんと二人で歩いていたら、

「うちにおいでよ」

 …………家に、誘われた。

「帰っても。誰もいないんだろう?」
「……!」
「中小企業に務める父親と二人暮らし。だが、君のお父さんは家庭を顧みない。今夜も帰ってこないか。酒でも飲んで遅くなるんじゃない?」

 いったいどうやってそんなことを調べたというのか。

「花は。愛に飢えてるんだね」

 どうしてそんなことを笑って言うのか。

「そもそもに。愛ってなんだろうね?」

 わからない。

「埋め合おう。似たもの同士」
「似たもの……同士?」
「僕も。花と一緒ってことさ」
「仁瀬くんがわたしと?」
「興味ないんだ。なにもかも」

 彼は、言った。
 求められる自分で有り続けることは簡単だと。

 勝ち組と呼ばれるものになるのは難しいことではないと。

 人が羨むものを既に持っているか、あっさり手に入れられると。

 だけど。

 それでは自分の人生を生きているとは、言えないと。

「初めてなんだ」
「……はじめて?」
「自分から欲しくなったの」

 仁瀬くんはなにが欲しくなったのか。

「ようやく、生きていると実感することができた」

 なにが、仁瀬くんにそこまで思わせたのか。

「仁瀬くんは。なにが……欲しい、の?」
「花が欲しい」