「ビックリした。そういうことか〜!」
「仁瀬くんから眠る前にお休みコールくるとか。どんなけ贅沢なの?」
「でも、さすが花ちゃん。王子相手に睡眠欲が勝つとか。花ちゃんしかできない技だ」
「ヘンな関係じゃなくて安心したー」
「当たり前でしょ。花ちゃんは、沙羅の親友なんだから」
 …………!!
「だね。友達裏切るわけないか」
「他愛もない話でも、沙羅のやつ羨ましがるだろうな〜。仁瀬くんからの電話、いくらで買える!? とか言いそう」
「めっちゃ言いそう!」

 電話したことなんて、ない。
 連絡先も知らないし。

 医者の息子ってやつも。
 ……初耳。

「ねえ、花。“約束忘れてごめんなさい”は?」
 ――――!

「出た。噂の、甘い王子が見せるドSな一面」
「痺れる〜」

 忘れてない。約束、してない。

「……ごめん」
「いいよ」

 触らないで。

「そういうところも。可愛いから」

 可愛いって言って優しく頭を撫でないで。

「なんか仁瀬くん。花ちゃんのこと大好きな感じ」
「そっかー。そうやって女の子、イジワルしながら甘やかすんだ。奥深い。ハマらずにはいられない」

「下校時刻すぎてるぞー」

 見回りの先生がやってきて、慌てて後片付けをする。

「玲二くん」
「いーよ、俺は」
「え?」
「先約。あっちなんだろ?」
 …………ちがう。

「ごめんね」
「いいって」

 わたし、本当は玲二くんと帰りたい。
 玲二くんに。
 仁瀬くんとの関係、誤解されたくない。

 わたしは仁瀬くんが苦手なんだ。
 仁瀬くんも、本当はわたしのこと嫌いなの。

「約束、したのに。ごめん」

 玲二くんの腕に、触れたとき。

「いいって言ってるだろ」

 冷たく腕を、振り払われて。

「……っ」

 いつも優しい玲二くんが怒ってるってわかったとき。
 胸が、ギュッと苦しくなった。

「ちょっと、花ちゃん」
「……大丈夫?」

 だから、思わず涙が溢れてしまったんだ。