仁瀬くんと帰る約束なんて……
「え、そうなの?」
「二人……で?」

 女の子たちが動揺を隠せない。
 それ以上に、わたしが、なにが起きているかわからない。

 だって、わたしが帰る約束してたのは。
 玲二くんで――
「もしかして忘れてた? 昨日話しただろ。今日は一緒に帰れるって」

 昨日、話した?
 そんなはずない。
 昨日は顔も合わせていないのだから。

「ったく、花は。いつもそうだ」

 クスッと笑うと、わたしの頭に手を置いて。

「眠る前に話したこと。忘れちゃうよね」

 ――平然と、嘘を塗り重ねる。

「ちょっと。眠る前ってなに」
「どういう関係?」

 女の子たちから不審な目を向けられる。

 なにを言えば正解?
 わたしにも嘘、つけってこと?

「以前、花を保健室に運んだことがあって」
「あったあった! 王子がお姫様だっこする事件!」
「後日、体調どうって僕から花に話しかけて。なにか相談したくなったら電話してって連絡先交換してさ」
「あーっ、ひょっとして。お父さんのいる病院、紹介してあげようとして?」
「そうそう」
「さすが医者の息子。抜かりない」
「それからは。ときどき他愛もない話をするようになった。花はさ。ちっとも自分から連絡くれないんだ。だから、僕からかけるんだけど。眠気が勝って話を最後まで聞いてはくれない。ね?」

 話を合わせないと。

「うん」

 わたしの大切なものを。
 大切な人を傷つけられると思った。