仁瀬くんは壊れてる

 扉をくぐる直前。
 玲二くんが、視界に仁瀬くんを捉えて目を見開いたとき。

「あー、芳田。おかえり」
「みてみて。これ、仁瀬くんが塗ってくれたの」

 女の子たちが、玲二くんに一斉に話しかけた。

 玲二くんが、みんなの元に寄っていく。
 わたしは玲二くんの傍から離れないように、同じように近づいていく。

「おお。もうこんなに塗れたのか」
「仁瀬くんがいたら、百人力だよ〜」
「つまり俺はお呼びでないと。さて帰るか」
「いやいや、芳田も戦力だから! これ、縫える?」
「どれ」
「担当した子が失敗しちゃって」

 鞄を置くと、衣装を受け取る玲二くん。

「これは……」
「やっぱり無理?」
「余裕で直せる」
「さすが芳田。オールラウンダー! ギャップにかけては宇宙一!」
「うぜえ」
「夏休み中に仕上げてくれたらオッケーだから。間に合えば登校日に持ってきて。合わせたい」
「はいよ」

 玲二くんが、衣装を紙袋になおす。
 大きなカラダして丁寧にたたみ入れる様子が几帳面って感じでかわいい。

「なに笑ってんの、花」
「だって」
「なにがだってだよ」
「玲二くん、裁縫できるんだ?」