仁瀬くんは壊れてる

「花?」
「…………」
「どうした」

 扉から飛び出たあと、廊下で玲二くんと鉢合わせした。

 わたしが慌てていたから驚いたのだろう。
 目を丸くさせ、わたしを見つめる玲二くん。

「……部活。終わったの?」
「ああ」
「お疲れさま」
「サンキュ。進んでる?」
「うん。少し」
「花も、お疲れ」
「ありがとう」

 玲二くんの顔、見たら。
 モヤモヤしていた気持ちがやわらいでいく。

「どっか行こうとしてた?」
「あー、ちょっと手を洗いに」

 そういって、都合よくペンキがついていた指を見せた。

「ペンキか。石鹸じゃ簡単に落ちないかもな」
「そうかも。じゃあ、いいや。お風呂で落とすか。そのうち落ちれば」

 玲二と並んで教室に向かって歩く。

「花の手ってさ」
「んー?」
「かわいいな」
 …………え?
「子供みてえで」
「たしかに小さいけど」
「や、それもあるけど。なんつーか。女の子って感じで」
 …………!
「あとさ。俺、あんまりネイルとかの良さわかんなくて」
「そうなんだ」
「綺麗だとは思うけど。好きなのは、花の爪みたいな。きちんと切りそろえられた、ナチュラルなのにキュンとくる。って、こんなマニアックな話、どうでもいいか」
「どうでもよくない」
「え?」
「どうでもよくないよ」

 玲二くんの言葉は。
 いつも、わたしを安心させてくれる。

「嬉しいよ、玲二くん」
「……花」