悔しくて。悲しくて。苛立って。

 涙が止まらない。我慢したいのに。

 どうせ泣くなら。
 涙は、嬉しいときに、流したい。

「花は。笑顔より泣き顔の方が、ずっと可愛いね」

 仁瀬くんは、やっぱり、壊れてる。

「仁瀬くん」
「なんだい、花」
「めちゃくちゃにしないで。沙羅のことも。このクラスも」
「いいよ。可愛い花のお願いだ。悦んで聞いてあげる」

 本気なんだ。
 本気で、わたしが苦しいと、仁瀬くんは嬉しいんだ。

「ねえ、花。僕のお願いもきいてよ」
「……なに」
「あのときの花。もう一度、見せて」
「あの、とき?」
「もっと泣いて」
 …………!

「ドキドキすることされて。泣きながら僕を受け入れる君が、見たい」

 受け入れたりなんか――……
「鞄、三つあるってことは。もうじき誰か戻ってくるってこと?」
「!」
「僕は、いいよ。こんなとこ誰かに見られたくらいで狂うような人生じゃないから」

 学園祭を、滅茶苦茶にしないためには。
 みんなの努力を無駄にしないためには。

 わたしが、前に進むためには。

「……仁瀬くん」

 この要求を受け入れるしか、ないの?

「花」

 やめてよ。
 そんなに愛おしそうにわたしを見つめるのは。
 勘違いしてしまいそうになる。

 このひとは、この一瞬だけは、わたしを心から想っているんじゃないかと。

「目、つむってくれなきゃ。できない」
「じゃあ瞑らない」
「どこまでイジワルなの?」
「はやくちょうだい。待ちくたびれた」
「……っ」