仁瀬くんは壊れてる

 たしかに、そうだった。
 これまでは。

 なにかに熱心になったことも、やりたいことも、なかった。
 見つけられなかった。

 まだまだわたしは省エネだ。
 みんなといると差は感じる。

 同じ温度で、感じ取れていないなって。
 それでも――
「絶対に成功させたい」

 そう思える仲間が、できた。

「安心したよ、花」
 …………アンシン?
「その方が。潰し甲斐ある」
 …………!

「グチャグチャにして。花を悲しませられる」
「……めて」
「どうやって壊そう。いつがいい? まだはやいか。やっぱり飾り付けが終わったあと――学園祭の前日とか」

 ――――やめて。

「最低っ!」
「おっと。大きな声を出すと、関係ない人が来るから。やめようね?」
「……っ」

 最低、最低、最低……!

「お利口だ、花」
「どうすれば邪魔しない?」
「うん。状況がよく呑み込めているね。その通り。僕に判断を仰ぐのがベストだ」

 視界が、ぐらつく。

 やっぱりこの男は最低最悪だった。

 問題は、みんなが仁瀬くんを頼りきっていること。信じきっていること。

 コッソリ仁瀬くんの目を盗んでクラスメイトに仁瀬くんのことを警戒してと忠告したとして。
 不審がられるのは、わたし。

 要求は、なに?
 わたしがこの男を止められるなら。
 なんとしても、止めなきゃ――
「キスしろ」
「……は?」
「でなきゃ僕が台無しにする」