仁瀬くんは壊れてる

「喉かわいたー」
「休憩してくる」

 ひとり、またひとりと。
 教室から生徒が減り、ポツリと残された。

 一緒にジュース買いに行かないかと誘われたけど断った。

 水筒のお茶はまだ残っているし。
 誰かと行動するのが得意ではないし。

 荷物や道具を見張る役として留守番を買って出た。

 ふと、廊下を見ると。
 大きな木材を持った人が歩いて通り過ぎるのが見えた。あれは演劇のクラスかな。

 もしも準備が追いつかないなら夏休みに来ていいらしい。
 きっと、大丈夫。
 ……楽しくなりそう、かも。

「ひとり?」
 …………!
「睨まないでよ」

 ――――でた。

「寂しかったろ。最近かまってあげられていないから」
「かまってなんて頼んでない」
「ああ。そうそう。花は、そうでなくちゃ」

 仁瀬くんが、後ろの扉から入ってきて。
 ゆっくりと近づいてくる。

「冷やかしなら。帰って」
「花だけだよ? 僕を邪魔がるのは。他のみんなが、どれだけ僕に感謝してるか」
「なに企んでるの」
「心外だな。僕も高校生なんだ。学園祭を経験しておくのもいいかと思ってね」

 ほんとかな。
 作り笑顔が、胡散臭い。

「ホントは。ただ、花の役に立ちたいだけ」
「!」
「名誉挽回しなきゃね。相当嫌われちゃってるみたいだから」
「嫌われてるって……。よく言うよ。わざわざ自分から嫌われるようなことしておいて」
「なにかしたっけ。君を怒らせるようなこと」
「白々しい」
「そんなイライラしてないで。せっかくのお祭りなんだ。一時休戦ってことで、楽しもう」