仁瀬くんは壊れてる

「仁瀬くん、来ないかな〜」
「昼休みは顔出してくれたりするけど。放課後は、厳しいっぽいね」
「やっぱり忙しいんだろうな」

 あの男は、気まぐれに教室に顔を出す。

「いくつしてるんだっけ、習い事」
「ピアノでしょ。バイオリンでしょ」

 へえ。楽器、弾けるんだ。

「小さい頃はバレエしてて。アイススケートもしてるんだったよね」

 カラダ柔らかそう。

「フェンシングもかじってるとか。まさに王子だよね!」

 どんなけ習ってるの。
 ハードそうなのはもちろん、レッスン料や道具買い揃えるのに、いくらかけてるんだろう。

 それで成績までいいって。
 サイボーグかと。

 ……ただの俺様で傲慢で女の子とデートばかりしてるひとってわけでもなかったんだ。

 学校の方針としては特進クラスの生徒には勉強を優先させたがっているみたい。
 だから学園祭の準備はおろか、当日、お祭り気分にならず自習室にこもる生徒がほとんどだとか。 

 ところがどっこい。

 今年は生徒代表の仁瀬くんがふるって参加するものだから、特進もお祭り気分。
 準備はともかく当日は女子に限っては全員出席するだろうと予想されている。

 なにせ、あの仁瀬巧がレアな衣装を着て客寄せするのだ。

 いろんな意味で行列ができると言われている。
 メニューにチェキを入れればボロ儲けできるなんて目論む者もいた。却下されたが。

 もはや予約制にした方がいい、そうしなければパンクすると唱える者もいる。

 まったくあの王子様は。 
 ……とことん盛り上げてくれるよね。