仁瀬くんは壊れてる

「どーした」
「え?」
「急に沈んで」

 芳田くんがこっちを見ずに、静かに問いかけてくる。

「芳田くんは、ひとの感情の変化に敏感だね」

 顔に出してるつもりないのに。
 出てるのだろうか。

「誰のでも気づけるわけじゃねーよ」
「そうなの?」
「言ったろ。気になるって」
 …………!
「人より見てるから気づけてるだけだ。って。今の、ストーカーみたいでキモいな」

 こっちを向いてはにかむ芳田くんは、お兄さんって感じがする。同級生なのに。

「キモくないよ」
「そーか」

 なんだろう。
 沙羅もだけど、芳田くんの言葉のひとつひとつから温もりを感じる。

「ごめんね」
「なんで謝んの」
「盛り下がるようなこと、言った」
「いーんだよ。沙羅が無駄に盛り上げすぎるから、中和されてて」

 そうだろうか。
 沙羅も芳田くんも、いつもわたしに気を使ってくれているような気がしてならない。

 優しくされっぱなしだと。
 …………わたしも優しくしたくなる。

「でもまあ。うん。ビキニは、見てえな」
「芳田くんまで……!」
「小糸井さんのっていうのが。興奮する」
「そんなこと言う人だったの?」
「言うよフツウに。沙羅と二人だと下ネタ吐くし。剣道部はヤロウだらけだからな。ゲスい会話の一つや二つ、飛び交ってる」

 硬派なイメージが、崩れていく。
 
「下ネタって。……たとえば?」
「そこ食いつかれるのは予想外」
「えっ」
「どうした省エネ」
「少し、気になって」
「ナイショ」

 そんなこと言われると余計に気になる。

「一応、小糸井さんの中の俺は紳士なんだろ?」
「一応もなにも。めっちゃ紳士」
「だったら尚更」