仁瀬くんは壊れてる

「海も、花火も、夏祭りも。人が多くて疲れるだけなのに。よくそんな元気あるね」

 言い終わったあと、ハッとする。

 これまでも色々と反論してきたけど。
 さすがに今のは感じ悪い。

 参加する意志がないということを伝えるだけで十分。それを真っ向から否定してどうする。
 沙羅が楽しみにしてることなのに。

「いいこと思いついた!」
 わたしの心配をよそに、沙羅が、弾けるように言った。

「それ絶対にいいことじゃねーだろ」
 苦笑いする、芳田くん。

「まあ聞いてよ」
「はいよ」
「肝試し!」
 …………へ?
「肝試しなら、人いないでしょ。花火も少人数でやれば問題なし。海は、知り合いの民宿が格安で借りられて。それがそんなに混んでないんだな〜。これなら花も一緒に青春満喫できる!」
「民宿って。泊まりか?」
「当たり前」
「……俺も?」
「あ、今やらしいこと考えた? 同じ部屋にみんなで布団敷いて眠りたいとか」
「考えてねーよ」
「それも楽しそうだけどね」
「修学旅行の夜か。部屋抜け出して男女でトランプしたり枕投げるやつか」
「絶対に楽しませる自信あるなあ。うち、何人でもいいよ。なんならこの三人で」
「旅行なら二人で行けよ」
「ダメだよ、荷物持ちに力仕事に幽霊役。引き受けてもらうこと山ほどあるんだから」

 どうしてそんなに沙羅は。

「花の、苦手じゃないことして楽しもう。なにも遠出しなくても。ホラー映画鑑賞会でもいいよ。レイジの部屋で」
「俺の部屋かい」
「広いよね。テレビ大きいし。夏といえば、ホラー!」

 …………優しいの?

「沙羅〜!」
「はいはーい」

 実行委員に呼ばれ、「ちょっと行ってくる」沙羅が席を立つ。

 沙羅は盛り上げ上手だ。
 だから委員ではないけど、実行委員並みにクラスを引っ張ってくれている。

 このまま友達で、いたい。
 できるものなら。

 仁瀬くんとのことで沙羅を失うのが怖い。