……あんな男よりも。
 はやく、別のひとに恋したらいいのに。

 仁瀬くんを好きになったって傷つくだけだ。
 わたしは沙羅が泣くような未来、来てほしくない。

「レイジ、なにかない?」
「は?」

 席替えをして、沙羅とわたしと、それから芳田くんが近くなった。
 席を移動せずに会話できるくらいには。

 沙羅とわたしが再び前後になったのは、偶然でも運命でもなく意図的に起こしたことだ。
 くじ引きなんて建前で、生徒同士でコッソリくじを交換したから。

 ただし芳田くんがわたしの隣なのは、必然でなく偶然。

「なにが」
「だからー。学園祭の模擬店」
「俺、部活の方に出るからな。準備はなるべく出るけど当日はそっち行かせてくれ」
「剣道部なにするの?」
「演武」
「……って?」
「まあ。剣道してるってこと」
「よくやるね。この時期に」
「一年中やってら」
「そうそう、花。レイジ強いんだよ〜」

 わたしの中の芳田くんのイメージが、どんどんたくましくなっていく。
 ガリ勉メガネくんってわけではなかった。

 ちなみに成績もいい。
 特進に入れるくらいには頭がいいのに部活と両立していきたいから一般にいるんだよって沙羅が言っていた。

「やめろよ。まだまだだから」 
「謙遜なさるな〜。小学校からやってるんだよね?」

 継続は力なり。

「ひとつのことを続けられる才能って。凄いよね」
「だってさ、レイジ」
「……おう」
「あ、照れた」
「うるせえ」
「あのね、花。レイジってば、剣道が恋人だから。女の子のこと、なんにも知らないんだよ」
「頼むから黙ってくれ」

 芳田くん……って。誠実そう。
 間違っても恋心がないのにキスしたり、傷つけて楽しんだりはしないだろう。
 
「芳田くんに選ばれた子は。……幸せになれそう」

 沙羅の好きな相手が芳田くんなら、安心して見守れるのに。