仁瀬くんは壊れてる

「お姫様だっこ〜!?」

 簡単に、さっきの出来事を話した。
 遅かれ早かれ伝わるなら、今話したほうがいいと思ったからだ。

「不本意ながらにね」
「ラッキーすぎない? うちだったら不整脈起こすよ!!」
「…………大きな声、出さないで」
「ああっ、ごめん。でも。階段から転がり落ちなくて良かったね」

 いちばんに、わたしのことを心配してくれている沙羅から、優しさが伝わってくる。

「好きなのかな」
 …………!!
「仁瀬くん。花が、好きなのかな」
「そんなんじゃないよ。たまたま近くにいたから運んでくれただけ」
「ほんとに?」

 好きなら、わたしの嫌がることしない。

「うん」

 無理矢理キスしない。
 泣き顔が可愛いって言わない。

「そっか」

 優しく抱きかかえておいて、乱暴にベッドに寝かせたのも。
 服の中に、手を入れてきたのも。

 …………わたしがキライだから。

「苦手だな、わたし」
「え?」
「あのひとと、いると。すごくペースを乱される」
「仁瀬くんマイペースだもんね〜」
「偉そうな人、無理だし」
「花くらいだよ。仁瀬くんにそんな態度とるの」
「なにもかも思い通りになるって思ってそうなところが。本当に。嫌い」