カラダが、ふわりと包み込まれたすぐあとに。
 浮き上がる感覚。

 落ちる、と思った。
 でも。

「……なんで」

 しっかりわたしを抱きかかえたのは、

「すぐに横になれるところ。連れて行ってあげるから」
「離して」
「動いちゃ、落っこちるよ」
「離してよ」
「静かにして。みんな見てる」
「……っ」

 ――――いちばん触れられたくない人。

 屈辱。

 憎悪。

 保健室にやってくると、荒っぽくベッドにおろされた。

「剥がしなよ。こんなもの」
「……!」

 指でなぞられたのは、首元の絆創膏。

「ずっと隠してるつもり?」
「…………消えるまで」

 フッと笑みを浮かべると、顔を近づけられる。

「消えないよ」
「え?」
「消える前に。僕が上書きするから」
「……っ」

 いつの間にか体内に入り込んだ寄生虫みたいに。
 このままわたしを侵食していくつもり?

「可哀想な、花。怯えてるねえ」
「…………」
「泣いてもいいよ」

 …………そんなこと、させない。

「泣かない」
「いいや、泣くんだ。花の泣き顔。たまんないから」

 泣きたくない。
 この男の思い通りに、なりたくない。

「抗うことない。僕ののぞみ通りに動いてラクになりなよ」
「……いやだ」

 こんなになにかを拒絶したいと思ったのは、きっと初めて。

「へえ。そう」

 こんなに誰かを憎いと思ったのも、初めて。

「体育のあとで、汗かいてたりする?」
「やだ」

 仁瀬くんの手が、制服の中に入ってくる。

「じっとしていられたら。やめてあげる」