なりゆきで芳田くんと並んで歩く。

 どう考えても歩幅、芳田くんの方が大きいはずなのに。
 同じペースで歩けている。

 つまり芳田くんが合わせてくれているのだ。

 沙羅に頼まれたからだよね。
 教室まで、わたしのこと、みててくれるんだろうか。

 沙羅と話してるときの芳田くんは。
 なんだか少し、くだけていた。

 印象が、柔らかくなったというか。
 ほんの少しだけど。

 きちんと切りそろえられた襟足。
 ズボンに入れられたシャツ。
 そういうとこは、真面目くんだ。
 剣道してるせいか姿勢もいい。

「沙羅と仲いいの?」
「同中」

 ああ、それで。
 互いに名前呼びなんだね。

 弾まない会話。
 まあ、盛り上げる必要もないか。

 元々わたしは口数が多くはない。
 沙羅といると相づちを打つから話す機会があるというだけで、一日誰とも話さなくても平気だ。


「ねえ。今日は一緒に帰れる?」
「んー、どうかな」

 ――――どうして。

「あそぼーよ」

 わかっちゃうかな。
 たとえ傍にいたって。
 気づけなければ、いいのに。

 近くにあの男がいる。
 そう感じた直後、ふいに目眩がした。
 思わず踊り場にしゃがみ込む。

「……ちょっと。大丈夫?」
「なになに」

 ざわめきが耳に入ってくる。
 立ち上がらなくちゃって思うのに。

 顔をあげることが、できない。

「やっぱり行こう。保健室」

 これは芳田くんの声。
 しゃがんで、わたしを覗き込んでくれている。

「ううん」
「でも、小糸井さん――」
「花」