――ドクン

 大きく心臓が揺れたと同時に、襲いかかってくるのは。

 お腹の底から抉られるような。
 吐き気でも痛みでもない、不快感。

「やっぱり顔色悪いよ」
「平気だって」
「平気って……。あ、いいとこに! レイジ〜!」

 沙羅が通りがかった芳田くんを呼び止める。
 タオルで額を拭っている芳田くんは、汗をかいているのに爽やかだ。

「なに」
「花のこと。保健室まで連れてって」

 なに言い出すの、沙羅。

「芳田くん保健委員でもないし。わたし、保健室行かないし」
「……すげえ顔色わりいな」
「でしょ!? アンタ力あるから。背負っていけるでしょ!」

 無茶ぶりしないで。

「別に背負うくらいできるけど。小糸井さんが嫌がるだろ。……俺、いま汗くせえし」

 気にするところ、そこなの?

「とにかくレイジ。花を送り届けなさい」
「はいよ。沙羅は?」

 あれ、芳田くん。
 わたしの前では“楠田さん”って呼んでたのに、沙羅には名前呼びしてる。

 それに沙羅も。
 芳田くんのこと、レイジって。

「うちはメイク直してくる。なにかあったら連絡して。飛んでいくから!」

 沙羅は、体育のあと決まって化粧が崩れたと言ってトイレに向かう。

 芳田くんとその場に残されてしまった。

「どーする」
「……行かないよ」
「なら。教室戻るか」
「うん」