「……本?」
「とぼけないで。図書室で、借りたでしょ。三週間近く前に」

 すると、仁瀬くんは。
 かがんでスニーカーを手に持ち、靴箱にしまったあと、思い出したように言った。

「ああ。そうだった」
「期限は二週間って伝えたよね」

「仁瀬くん、本借りたの〜?」

 仁瀬くんの腕をつかみながら問いかける女子。
 ややこしいから会話に入ってくるな。

「うん。面白そうだったから」
「なんて本?」
「さあ。覚えてない」

 仁瀬くんの返事に、女の子がポカンとする。

 そりゃそうだ。
 面白そうだったから借りたのに覚えてないってどういうこと?

「机の中に入れっぱなしだから。今も入ってると思うよ」
「思う、じゃ困る。返しに来て」
「取りに来てよ」
「はあ? なんでわたしが……」

 自分で来い、と言いかけたそのとき。

「はい! とりにいきます! 昼休みでいいですか?」

 固まっていた沙羅が、目を輝かせてそんなことを言い出した。

「ちょっと。沙羅」

 お願い、と言わんばかりにウインクされる。
 そうか。
 沙羅は、仁瀬くんのクラスに遊びに行きたいんだね。

 休み時間に他人のために時間を割くのは避けたい。
 どうして仁瀬くんの尻拭いをわたしがせにゃならんのだと。

 でも、まあ。
 沙羅のためなら。一度くらいはいいか。

「……わかった。取りに行く」