――生きてて愉しい?

 あの言葉。
 忘れようと思っても、忘れられない。

 それはきっと、他でもない、あの男にかけられたから。

「学ランもよかったけどー。白いシャツも爽やかでいいよね」

 そう、それだ。
 普段は爽やかで。虫も殺さないような顔して。
 わたしに平然と毒を吐いた。

 あの男は、腹黒い。

「……あ」

 そういえば。
 仁瀬くん、図書室の本を返してない。

 返却期限とっくに過ぎてる。
 先生に言ったら『仁瀬ならきちんと返すだろ』って気にもとめていなかった。

 仁瀬くんは、女の子だけじゃなく先生からも特別扱いされてるんだ。
 ……それってどうなの?

 仁瀬くんが、靴を履き替えている。
 わたしとの距離。およそ二メートル。

 うっとりした目で仁瀬くんを見つめる、沙羅。

「ちょっと」

 わたしに声をかけられた仁瀬くんが、こっちを見る。
 仁瀬くんの隣の女子は
「一般クラスの子じゃん」
「特進になんの用」
 なんて言っているが大いに用がある。

「本。ちゃんと返してよ」