――――え?

 かけられた言葉の意味を理解する前に、

「仁瀬くーん、ここにいたの?」
「うん」
「探したよ?」
「ごめんね」

 仁瀬巧は、女の子に連れて行かれた。


 生きててたのしい?
 生きててたのしい……

「なんでそんなこと言われなきゃならないの」

 作業に戻ったわたしの独り言に、芳田くんがギョッとする。

「さっきの。特進の、仁瀬だな」
「そうだね」
「……小糸井さんでも。やっぱり仁瀬みたいなのには弱い?」
「気に食わない」

 わたしの人生なんて、たいしたものでもない。
 同じことを沙羅に言われたなら許す。
 だけど、初対面であの態度はナニサマだ。

「なにかあった?」
「別に」
「アイツと。知り合いとか」
「知り合いじゃない」
「珍しいな」
「なにが」
「小糸井さんがイライラしてるの」

 言われて気づく。
 自分が感情的になっていることに。

「前に、教室にゴキブリ出たろ」
「出たね」
「あのとき。みんな逃げてたのに、小糸井さんは動じてなかった」
「毒持ってたり、襲いかかってくるわけじゃないから」

 セアカゴケグモやスズメバチなら身の危険を感じて離れてたよ。

「そんな小糸井さんが。誰もが口を揃えて褒める仁瀬巧に敵意を剥き出しにしている」
「…………」
「気に食わないって。“興味ない”わけじゃないだろ?」
「興味ない」
「本当に?」
「ない」

 あんな男。
 できるなら、もう二度と話したくない。