しかしまあ。
 たった二人でやる仕事じゃないな、これ。
 年末の大掃除くらいハードでは?
 各クラスの図書委員が集結してやるくらいすればいいのに。


「すみません」

 しゃがんで作業していると、誰かが声をかけてきた。
 顔をあげる前に気づく。

 それが、あのひとだってことに。

「本を借りたいんですけど」
「あ、はい」

 その人物と、貸出カウンターまで歩いていく。

「作業、中断させてごめんね」
「かまいませんよ。これも仕事ですから」

 ここの本、読むんだ。

「クラスと名前書いてください」

 知ってるよ。
 あなたは、特進クラスの――

 “仁瀬巧”

 綺麗な字で名前が書かれる。

 校内イチのモテ男子。
 沙羅の、すきなひと。

 こんなに近くで見たのは初めてだ。

 サラサラの茶色い髪。
 細くしなやかな指。
 長いまつ毛。
 薄い唇まで続く、すっと高い鼻。

 たしかに文句ナシのイケメン、なのだろう。

 わたしは顔より声に特徴があるなと思う。
 一度で覚えてしまったから。

「貸出期限は二週間です」

 本を受け取った仁瀬くんが。
 鞄にそれをなおしながら、囁いた。

「省エネ人間」
「…………」

 さっきの話、聞かれていたらしい。

「欲がないんだ?」
「……まあ」
「本当に?」
「睡眠欲だけはありますかね」
「へえ」

 あげられたのは、片方の口角。
 その含み笑い、なんですか。

 どうしてカウンターから離れないの。
 もう用事ないよね。
 わたし、戻っていいかな。

「そんなんで。生きてて愉しい?」