仁瀬くんは壊れてる

 ――お試し期間?

「一ヶ月、付き合ってみて。恋愛感情わかなければ諦めますと。ファンとして、これからも追いかけますと約束しました」
「そんなハナシ。聞いてない」

 ギロリと沙羅が玲二くんを睨む。

「言ってねーもん」
「言ってよ!」
「……怒ってたし。途中で聞く耳もたなかったし」

「チャンスだと思いました。一ヶ月あれば。なんとか既成事実作れるかなって」

 この子、けっこうヤバいんじゃ……?
 まっすぐで可愛いけども。

「でも。まさか、一日で。ううん、一日ももたずに。一緒に帰ることも、休日デートもせずにお試し期間解消されるとは思いませんでした」

 早川さん……。

「なんでフったのレイジ!? こんなに想ってくれてるんだから。デートしてあげなよ!」
「……オマエなあ。言ってることさっきと真逆だろ」
「さっきとは事情が違うでしょ」
「おんなじだ」

 玲二くんが、早川さんを見る。

「正直、少し揺れた。早川さんと付き合えば楽しいことありそうだなって。だけど。俺、やっぱりこのままでいい」
「芳田くん……」
「それはさ。きっと、早川さんの努力不足とか。他の子なら付き合えたとか、そういう問題じゃなくて。俺が、花と。それから沙羅と。たいてい三人でいるんだけど。この関係が落ち着くからなんだと思う。そもそもに、剣道一筋で生きてきた人間だ。恋愛したいって、今はあんま思ってない」