仁瀬くんは壊れてる

「それは……」

 沙羅が、俯く。

「なにしてんだ。こんなとこで、二人して」

 玲二くんが戻ってきた。
 …………女の子を連れて。

「こっちの台詞だし。レイジがなにしてんの」
「いいんだよ俺は」
「はあ?」
「えっと。この子が、小糸井花」
 …………わたし?


 四人で、ひと気のない場所に移動してくる。
 非常階段だ。
 ここなら、人の目を気にせずに済むから。

「はじめまして! 早川です」

 顔を真っ赤にさせたボブカットの女の子に挨拶された。
 玲二くんの彼女さんだ。

「はじめまして」
「その……私が。ワガママ言って。芳田くんの好きなひとに会いたいって頼んで」

 なんだこの展開は。

「か、可愛いです。花ちゃん」
「だろ」
 …………?

「だろ、ってなに。どうなってんの!?」

 沙羅に同じく。
 わたしも状況がわからない。

「私がいけないんです」

 早川さんは、困り顔で語りだした。

「芳田くんに、気持ちがなくても付き合いたいってごねて」

 積極的というか。一途というか。

「七回。付き合えないって、断られました」

 一回の告白で!?
 それも、数えていたのか。

「その理由が。好きな子がいるからって言われて。じゃあその子と付き合うまでの代わりでいいって頼んだら。中途半端なことしたくないって、言われて」

 沙羅が、目を見開く。

「そのあと。俺の恋は叶わないだろうけどって、芳田くんが寂しそうに笑ったの見て。思わず、抱きしめちゃって」

 ほんと積極的だな。

「一ヶ月。お試し期間が欲しいと懇願しました」