きっと、玲二くんは間違っていない。
 沙羅も間違っていない。

 恋愛には公式も模範解答も、ない。

 カップル誕生には複数のパターンがある。

 まず、両想いからのスタート。
 そうなれたら一番だけど、片想いからの両想いってものもあるだろうし。

 カップルの数だけ物語があるはず。

「キスできる?」
「は?」
「その子と」
「……まあ。そういう雰囲気になれば、できるんじゃねーの」
「じゃあ、少なくとも彼女のことを女の子として見てるよね」
「そうだな」
「好きな人から女の子って思われたら嬉しいよ。好きな人の彼女になれたら、嬉しいよ。それだけでも。その子にとっては付き合った価値あるよ。片想いのままで終わるより前進してるわけで」
「……花ってときどきスゲェ前向き」

 うむ。
 ときどきっていうのが、わたしらしい。

「でも、俺がキスしたいのは。やっぱりあの子じゃないな」
「……え」
「沙羅が怒った理由わかったかも」

 玲二くんが、立ち上がる。

「わりい。ちょっと行ってくる」
「どこに?」
「殴られてくるわ」
「えっ」

 玲二くんが、教室から出て行った。