「お前、俺の兄貴知ってるか?」
「唐突だな……城崎 涼介君?」

私もお前を知ってるんだぜ、という意味を込めて答える。
するとまた数秒フリーズした。

「おいおいおいおい。君は数十年前のパソコンかな? いちいちフリーズするんじゃあないよ」
「まぁまぁ。莉子ちゃん……」

これでハッキリした。
多分その『兄貴』っていうのは太郎さんのことだろうな。

(するとコイツは太郎さんの弟か)

少し天然だけど優しげで知的で格好良い太郎さんに比べて、顔は良いがチャラチャラしていて軽薄そうだ。

「……アンタ、なんで女のクセに男みてぇな格好してんだ?」

フリーズのあとに、コイツがようやく吐き出した言葉はそれだった。

「あァッ!? 喧嘩売ってんのか!」
「莉子ちゃんっ!」

人の事情にほぼ初対面でズカズカ踏み込んできやがって。
私の顔は正しく鬼の形相だったと思う。

「そ、そんなキレることねぇじゃん」
「うるさい! 言いたいことはそれだけかっ」

胸ぐら掴んで怒鳴りつける。

我ながら激昂しすぎている。
今までこんな事は吐いて捨てるほど経験してきた筈。
なんならもっと酷い言葉を投げ付けられた事もある筈なのに。

纏まらない思考で捨て台詞を叩きつけた。

「……お前がっ、なんでそんな事言うんだよッ!!」

そして勢いよく背を向けると、逃げるようにその場を走り去った。

「お、おい!」
「莉子っ!」

二人の声を背中で聞きながら走った。
涙の薄ら滲んだ目元をぐしぐしと擦りながら。

(なんであんな事……)

私は走りながらも、自分の吐き捨てた言葉の意味が分からず混乱していた。