「……で、陽太はどうしてる」

昔話のついでに質問を投げかける。
短い沈黙の後に『さぁな』とむっつりとした答えが返ってきた。

(嘘ばっかり)

この男はいつもそうだったな。
こんなに大きな図体しておいて、その実とても心配性なんだ。

それでいて。

「君はもっと自分の考えや気持ちを言葉にする事を、覚えた方が良いよ」
「……どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。察してくれ、は今どき流行らないぞ」

不貞腐れたような顔して横を向いてしまった。

(本当変わらないんだから)

莉子はこの男の事を昔から見誤っているんだ。
実際は結構ガキっぽい所あるんだから。

「お前に対する気持ちは、ちゃんと行動に示しているつもりだがな」
「そう……じゃあ、キスでもする?」

目と鼻の先まで近付いて、膝の上に手を置いてみる。
上目遣いで微笑めば、彼は眉間に皺を寄せた険しい顔で僕を見た。

「こういうのは、駄目だ」

またこれだ。
僕はため息一つついた。

「未成年には手を出さん」
「それはそれは立派な事で」

お友達の影響ですか、なんて野暮な事は聞かないけどさ。

「あっそ」

諦めて膝に置いた手をどかそうとする。
すると突然強く引かれた。

「ぅわっ、あ、危な……」

当然抗議したら、言い終わる前に僕は固まった。
掴んだ手の甲に、恭しい口づけを落とされたからだ。

「今はこれで我慢な」
「……君ねぇ」

顔の良い奴って反則だなって、思う。

(……なんの音だろう)

微かにピアノの音が聞こえる。
リズムも音階もすべて狂っている不協和音。

「お隣の家、随分騒々しいんだな」
「……そうみたいだな」

僕の言葉に、太郎は肩を竦めた。