空を見上げれば、分厚い雲は相変わらずでジメジメと湿った空気にウンザリする。

「いつになったら梅雨明けするんだろうね」
「梅雨は嫌いか?」

独り言を言えばすぐに返ってきた返事に珍しい、と振り返る。

「太郎。居たのか」
「……随分な返事だな。ここは俺の家だぞ」
「あー、そうだったね」

窓を閉めてクーラーのリモコンに手を伸ばす。
その手ごと包み込まれるように握られた。

「なにをするんだ」
「なぁ、フミオ」
「……その名前で呼ぶな」

本名は富美だが、子供の頃はこの名前が堪らなくイヤだった。
顔も体格も、おまけに名前まで女みたいだと何度揶揄われた事か。

だから幼少期の幼馴染みに『フミオ』と呼ばせていたのだ。
今となってはこの女の子みたいな名前も姿もある意味では役に立った。

「君達はあれからアメリカに行ってしまったから知らないかもしれないけどね」

皮肉めいた口を効くのは当てこすりとか、そういう事じゃない。
単に久しぶりに会った幼馴染みに、この姿でどんな顔をすれば良いのか戸惑っているだけだ。

「お前はどんな格好していても綺麗だな」
「……女を口説くように話すなよ」

女装しといて女扱いするなとは言わないが。
それにしても幼馴染みで10ほど年下の相手に。

「別にお前を女だと思っていない」
「ふん」
「でも……」

握られた手に、ほんの少し力を入れられる。

「男であろうが女であろうが関係無い。俺にとって君は大事な人だ」
「ふん、どうだかな……」

自らもその手に力を入れて応える。

(この男なりに責任感じてたんだろうな)

僕の大事な親友。莉子の心にトラウマを植え付けた、あの男……陽太は太郎の友達だった。

あれから全てが歪んでしまった。