手を振り払ったところで改めて部屋を見渡してみる。
机にベッド、作り付けの本棚に収納スペース。
シンプルであまり生活感ないが、コイツの部屋だろうか。

「おい」

涼介がベッドに腰掛けて私を呼んだ。

「ここ、座れ」
「……嫌だね」

別に警戒されるとかじゃあない。
単にコイツの言うことを聞くのが癪なだけだ。

(まったく、なんで私はこうなんだろう)

そこまで生理的に合わない相手なのだろうか。
この涼介という男とは。

「相変わらずだなぁ」

呆れたように言う。
言葉の意味がよく掴めず反応が返せなかった。

「ほら。面白いモンみせてやるからよ」

何やら分厚い本のようなモノを広げて見せる。
アルバムらしい。
そのページには子供達が数人写っている。

「太郎さん、写っているのか?」
「……結局、兄貴目当てかよ」

うんざりした声の涼介には構わず、彼の隣に座り覗き込む。

「……この子か。可愛いな」
「この赤子が俺だぜ」
「ふむ。この頃から間抜けな面してるな」
「俺の兄貴への評価の差がエグい」

この兄弟は10歳ほど離れているらしい。

「これがお母さんか」
「そ、イギリス人な」
「……綺麗だ」
「おいおい、兄貴の次はお袋かよ」

本当に美人なんだから仕方ない。
まるで女優……エリザベス・テイラーのような。
そう言えばこの写真の人の瞳。

「菫色だ」
「ん?」

日本人にはないこの独特な色。
あれ、太郎さんの子供の頃のも同じ色か?

「よく見えないなぁ」
「さっきから一生懸命何見てんだよ」
「瞳の色だよ」
「瞳ぃ?」

横からガーガーうるさい涼介を軽く怒鳴りつけてやろうと勢い良く顔を上げた。

「……っ!」

至近距離で合った目。
その大きな瞳……きっと母親譲りなんだろう。
美しい紫色だった。