「勘弁してくれよ、兄貴……」

涼介がぐったりとして言った。
そんな弟に太郎さんは諭すように答える。

「照れるな。お前がここまで楽しそうに喧嘩する相手なんてそうそう居ないだろう?」
「……俺は喧嘩なんてしたくねぇよ」

優しく頭を撫でる太郎さんは、なんだか兄というより父親みたいだ。
そう言えば結構歳離れているんじゃあないかな。
この兄弟。

「涼介は最近までアメリカにいたんだ」
「そうなんですか。じゃあ帰国子女ってやつだねぇ」

太郎さんの言葉に富美が驚いた様子で答えた。

「そうだ。俺も日本に来たのは半年ほど前でな。それまでは同じくアメリカだ」
「へぇ。で、今は大学の准教授ですか……お若いのに優秀ですね」

富美の言葉に太郎さんは少し驚いた顔をした後、妙に嬉しそうに笑った。

「若い子から褒めてもらうと嬉しいものだな」
「若者だって、年長者を褒める事くらいはしますよ? まさか女子高生が全て無礼で無邪気だとは思わないでしょう」
「………」

おいおい。
なにも富美まで私みたく喧嘩しなくてもいいんだよ!

ハラハラとした気持ちで黙りこんだ2人を見つめていた。
何故か隣に座る涼介も同じように思ってか、固唾を飲んで見守っている。

「……ははっ、君は面白いな」
「貴方は心が広いんですね。大きいのは身体だけじゃないみたいで安心しました」
「これは参った」
「あら、私は勝ったんですか」

シレッとそう言ってジュースを飲む富美を太郎さんはじっと見ていた。

(えっ……)

何やら胸が締め付けられるような感覚と、何か感じた事のない不穏な気持ちに包まれた。

顔に出すわけにはいかないから、少しだけ無理して笑った。
上手く笑顔になれているのか、自信ないけど。