ガヤガヤと周りで話し声が聞こえる。楽しげに話している人、暗い話をしている人、それぞれの話し声と食器が当たる音。そんな音はまるで店内音楽のように右から左へと流れていく。

私は白いテーブルに置かれた水が入っている一つの紙コップをじっと見つめていた。この行為に意味は無い、何かを考えているわけでもない。

まるで深い傷を負った精神を癒すかのように、私はただただ見つめていた。


視界端から一つの皿が目の前に出された。光沢を帯びているパスタが乗せられている皿。湯気が立っていて、私の目と鼻を誘惑するかのように刺激する。


「はい!私特製スペシャルパスタ!...と言っても冷凍なんだけどね〜。」


「うん....ありがとう...」


いつもなら冗談やツッコミを一つや二つ入れている筈だが、私にそんな元気も気力も無かった。
それを察したであろう玲美は静かに私の隣へ座り、水を一気に一杯飲んだ。


「ふぅ〜....ねぇ杏、まだ気にしてるの?黒を捕まえれなかったこと。」


「うん...私があの場に居なかったら....きっと捕まえれたもん。」


「そんな事ないって、私達はベストを尽くした。一人じゃ危険だし、男二人が騒いでた方が黒も油断する。