「海原(うみはら)くん」



教室の窓際。いちばん後ろの席の彼。前の席の私は、椅子ごと海原くんに向ける。



本から顔をあげた海原くん。こっちをみてくれるのは嬉しいけれど、睨むようなジト目と、かたく閉ざされた口が不機嫌を語っている。



「笑ったら負けだからね、せーのっ」



私が突然に始めたのは、にらめっこ。



寄り目をしたり、唇を尖らせたりと、渾身の変顔を披露する。



それらはもちろん、海原くんを笑わせるため。



……でも。



「なにしてるの、鈴村(すずむら)さん」



冷静に返されてしまって、心に深い傷をおう。



「海原くんの笑った顔が、みてみたくて……」



「ふぅん。方法がそれしかないの?残念だね」



グサグサグサ。これはもう塩対応では済ませないのでは?痛い。七味レベル。



「えっと……」



ちらりと海原くんをみる。さっきまでは変顔に夢中で海原くんのことをみれていなかったのだ。



……と。