そこへ測定室方面から咲さんが現れた。
「福井くん、何か用?」
「いえ。とくにありませんよ。どうしてですか?」
「さっき測定中に誰かドアをノックしたから。福井くんじゃなかった?」
「違いますね。」
 あれ、、でも僕らがここで作業している間、誰もここを通らなかった。測定室は無人の筈だ。僕と天野さんは顔を見合わせる。

「咲ちゃんの気のせいじゃないかな。」天野さんが言った。
咲さんは少し怪訝な顔をしたけど、すぐに気分を変えて、
「測定中にブースのドアの開け閉めができないの、不便だよねぇ。」と言って測定室へ戻って行く。
僕は何を言って良いかわからず、「そうですね。」と答え、彼女の後ろ姿を見送った。