僕が加工室に備え付けられた共用の作業台で、実験用の試料を固定していた時だった。横で作業していた天野さんが僕に話しかける。
「新しい測定器、あの奥に置かれたんだって?」
「はい。個室を作るスペースが取れたので。」
微妙な沈黙。何か、戸惑うような間のあと、天野さんは話を続ける。
「咲ちゃん怖がってないか?」
「何がですか?」
「知らないか?昔、1人死んでるんだ。あそこで。」
「・・・・」
「装置の中を有機溶剤で洗っててな、急性中毒で。」

僕らの研究所の数十年の歴史の中に、業務中の事故による死亡例が一件だけあると、社員研修の時に聞いた。
「入社の時に教わったアレですか?」
「そう。あれ。」
「え、あの場所なんですか?」
「化学実験室の方に繋がってた頃にな。あの辺り一帯、元々は化学実験室なんだよ。」
「そうなんですか。知らなかった。」
そういえば、床が変なところで途切れている。