「佐藤さんは結婚間近だったという話です。無念だったでしょうね。」
僕は若い青年研究者のひたむきな作業姿と、喪服姿の婚約者の様子を思い浮かべ、胸が詰まった。
「だからかな、不幸な事故が二度と起こらないように、見ててくれてるんじゃないですかね。」

 以来僕は、365日24時間、恒温恒湿に保たれ、空気さえ揺れない無機質な実験室に、ほんの少しぬくもりのようなものを感じるようになった。佐藤さんは今もここにいるのかもしれない。