そっと身体を離して、静流は柊を見つめた。

「もう自分の事を責めて、苦しめる事は止めよう。零だって、そんな事は望んでいない。ドナー登録をしていた零が、残された臓器を必要な人に使ってほしいと願っていた事なんだ。零の心臓が適合したのが、君だった。そして、零の心臓を受け継いでくれた君を俺は好きになった。こんな奇跡、どこを探してもない事だよ」


 柊の目が潤んできて、頬に涙が伝った。


「ずっと俺の事を避けていたのは、零の心臓を奪ってしまったって、罪悪感を感じていたからなんだな? 」

「・・・私なんかが生きていて、貴方の大切な人が死んでしまったなんて。悲しすぎると、思ったんです・・・。零さんが亡くなった時、貴方がずっと泣いていたって聞きました。亡くなってからも、ずっと立ち直れないままで未だに誰とも付き合おうとしていないと聞いて。全部、私が悪いからだと思っていました・・・」

「優しいんだね、君は。確かに零を失って、立ち直れないままだった。でも、君を見た瞬間からもう一度、誰かを好きになり愛したいと心から思えたんだ。どうして、気になっているのか分からなかったけど。きっと、零が引き合わせてくれたんだと俺は思っている。大切な零の心臓を受け継いでくれた人を、幸せにしてあげて欲しいって願っての事だと信じているよ」


 泣き出してしまった柊を、静流はそっと慰めた。


「もういいだろう? 全部分かったんだから」

「私でいいんですか? 」

「なんで? 」

「私、別にとりえもないし。みんなに暗いって言われているのに・・・」

「暗かったのは、自分の事を責めていたからだろう? 自分を責めていたから、笑う事も出来なかっただけだろう? 」


 そっと頷く柊。

「じゃあ、もう笑えるだろう? 自分の事責めなくていいんだから」

「・・・笑えると思います。・・・」


 静流はギュッと柊を抱きしめた。

 遠くからバスの来る音が聞こえた。

「あ、バスが来たよ。とりあえず、もう暗くなってきたから。帰ろう」


 柊はそっと頷いた。