事務とは別の応接室。

 ここはクライアントが来た時に相談の話を聞く場所で、防音がしっかりしていて他に声が漏れないようになっている。


 ソファーも座り心地が良いソファーで、テーブルも上品な木材でできている。

 窓際には観葉植物も置いてあり落ち着く空間である。


 ソファーに座って向かい合うと、ミルは余裕のある笑みを浮かべた。

「先生、この前。光友水族館にいましたよね? 私も子供と一緒にいたんです。声をかけようと思ったのだけど、先生女の人と一緒だったから遠慮したんです。でも、その人どこかで見覚えがあって。誰だろうって思いだしたら、7年前に母が亡くなった時。心臓移植を受けて退院した患者さんだって思いだしたんです」


「7年前? 心臓移植って、どうゆう事なんだ? 」

「先生の恋人だった人。北郷零って言うんでしょう? 」

「ああ、そうだが」

「その人って、脳死だったんでしょう? 」

「ああ」

「ドナー登録していて。臓器は必要な人に提供されたのよね? 」

「ああ」

「本当はね、私の母が先生の恋人だった人の心臓をもらうはずだったの。でもあの人・・・水族館で先生と一緒だった、東條柊って人が無理やり奪ったのよ」


 はぁ? と、静流は驚く反面どこか矛盾を感じた。


「東條さんって、東條コンサルティングの娘って知っていました? 」

「東條コンサルティングって、世界的大企業のか? 」

「ええそうよ。相当なお金持ち。だから、大金を積んで無理やり、母に決まっていた移植を自分の娘にさせたのよ」


 無理やりさせた・・・そんな筈ないだろうと、静流は思った。


「母はあの時移植してもらっていたら、死ななくてすんだの。でもあの人が、東條柊が無理やり奪ったの。先生の恋人を殺してね」

「ちょっと待ってくれ。殺したって、それは違うじゃないか。彼女は脳死だったんだ、誰にも殺されていない」