人通りの少ない公園を通り歩いてくる2人。


「家はどこ? 送って行くから」

「い、いいえ大丈夫です一人で帰れますから」

「夜道を一人で帰すような、そんな薄情な男じゃないよ俺は」

「でも本当にいいので」


「家を知られたくないのか? 」

「そうじゃないけど・・・」


 静流はそっと柊を見つめた。


「ちょっと、そこ座らないか? 」


 ベンチを指さして静流が言った。


 
 柊は静流に促され、ベンチに座った。


 空には一面の星空が広がっていて、月がとても綺麗である。


「あのさ、ちょっと話しておきたい事があるんだけど。いいか? 」

「はい・・・」


「もうすぐ8年経つんだけど。俺がまだ大学生の時、将来結婚しようって約束した人がいたんだ。高校生からの同級生で、まだ俺が学生で弁護士を目指していたから。一人前になるまで待っているって言っていたんだけど。俺が大学三回生になる時だった。彼女は突然事故にあって、脳死したんだ」


 ギュッと、柊は息を呑んだ。

「脳死した彼女は、ドナー登録をしていたから。臓器は全部、必要な人に提供されてしまって。脳死と判断されても、数年後に意識を取り戻したケースもあるって聞いたけど。彼女はそれを望んでいなかったから、だからすぐにお別れになってしまった。しばらくは俺も立ち直れなくて、勉強に打ち込む事しかできなかった。おかげでストレートで司法試験には合格して、そのまま弁護士にもなれたんだけど。弁護士になった頃には、母さんが病気で倒れてしまって。ずっと恋する事を、忘れるくらいだったんだ。気づいたら、もう28歳。あと2年で30歳ってところまできていたよ」

「・・・28歳なら、まだ若いですよね。・・・私はもう30歳ですから」

「え? 俺より年上だったのか? 同じくらいか年下だと、思ったけど」

「医師なる前に病気になり、1年浪人していましたから」

「そうだったのか。まぁ、歳の差なんて関係ないから問題じゃないけど。君と出会って、もう一度恋したいって思えるようになったからさっ」


 静流はそっと柊の肩を抱いた。

 肩を抱かれると、柊はドキッとした。