生簀の恋は青い空を知っているか。


紙を見せる。浅黄さんはボールペンを受け取って、笑っていた。

「どーぞ」

内ポケットにそれをしまった。立ち上がる様子がなくて、わたしの方を見る。

「貴重な睡眠時間が終わった」
「……わたしが本当に書かなかったら、どうしてたんですか」

ふと考えて、もしもの話をする。
頬杖をついたまま、浅黄さんは答えた。

「ずっと待ってた」

それは、ずっと寝られた、の間違いでは。
立ち上がって並んだ。

駅に向かう人の往来を見てから、わたしはバッグを持ち直した。

「わざわざここまで、ありがとうございます」
「あ、そうだ」

思い出したように浅黄さんがこちらを向く。