それはどうしてだろう。この人に逆らえないから? 借金を返してもらえるという手前、良い顔をしていないといけないから? この人に嫌われたくないから?
ピ、ピ、と耳の奥であの音が鳴っている。
「あそこ座ろうぜ」
途中、公園とも言えないいくつか座る場所の設置された広場を見つけた浅黄さんが、視線でそれを示した。
石のベンチに少し距離を空けて座る。浅黄さんはこの前見たときと同様、スーツは着ているけれど手ぶらだった。
「菊池さんにあそこまで送って貰ったんですか?」
「いや、タクシー掴まえた。菊池は親父の運転手だから」
「そうなんですか」
「暇なときだけ呼びだせる」



