自分のコートを渡すわけにもいかないので、持っていたストールを肩にかける。

「君が巻いとけよ」
「浅黄さん、風邪ひきますよ」

首をひいていた浅黄さんが観念したように肩を竦める。
そこにちょうど、菊池さんの車が停まった。

「お久しぶりです、松葉さん」

窓が開いて、一番最初にわたしに挨拶をしてくれる。

「隠れてないで早く乗ってください」

それからわたしの後ろに隠れていたらしい浅黄さんに鋭い視線を向けた。

「わかったわかった」
「出るなら一言言ってください、心配しますし捜します」
「はいはい」

そう言って車の扉を開く。ぽん、とわたしの後頭部に触れてから。
じゃあな、とだけ言った。