いや、浅黄さんが誰より格好良いのは認めるとしても、だ。 「わたし、本当にそういう気分じゃ……」 「今は流されとけ」 耳を食まれて、そう吹き込まれる。 「嫌でもぐずぐず後で考えるだろ、君なら」 「そ、そこで喋んないで……」 「なら今は俺の所為にして、流されておけよ」 じわりと視界が歪んで、今度こそ涙が溢れた。 この人はわたしに同情しない。 悪いことをしたら叱ってくれる。泣いてたら慰めてくれる。 わたしはこの人に何をしてあげられるだろう。 重なる唇の感触を受けながら、それを考えていた。